14.疫学統計用語
がん登録の精度に関する指標
1 DCNとは?
Death Cirtificate Notification の略で、死亡票によって、登録室が初めて把握した患者を示し、登録の完全性の指標として用いる。目標値は、全部位のDCN割合が25~30%以下で、届け出もれに比例して高くなる。
2 DCOとは?
Death Cirtificate Only の略で、死亡票のみで登録された患者を示し、がん診断の信頼性の指標として用いる。目標値は、全部位のDCO割合が15~20%以下とされている。
3 HVとは?
罹患者中の組織診実施割合(histological verified cases-HV)を示す。
統計の指標
用語集 (出典:国立がんセンターがん対策センター がん情報サービス)
国際がん研究機関[IARC](あいあーく)
国際がん研究機関で世界保健機関(WHO)の付属組織として、1969年に発がんリスクの評価を行うために設立。
全世界のがんの罹患をモニタリングし、がん登録を指揮して罹患率、死亡率、生存率の研究を実践。
「5大陸のがん」やEUROCAREスタディを編集、出版。
がん罹患リスクに関しては化学物質、放射線、さらにはウイルスなどを研究対象とし、現在までに900以上の物質を評価、また遺伝子解析を通じて、がん罹患のメカニズムの探求も行っています。
国際がん登録協議会[IACR](あいえーしーあーる)
世界のがん登録間の連携と、データの比較を目的として1970年に設立。
一定の基準に合格した登録を正会員として承認し、世界中から100ヵ国以上のがん登録が参加、日本からは13登録が正会員、1登録が準会員として参加しています。
院内がん登録(いんないがんとうろく)
医療施設における診療支援とがん診療の機能評価を第1の目的として実施するその施設におけるすべてのがん患者さんを対象とするがん登録のこと。
各医療施設での登録の精度の高さは地域でまとめる情報の精度を左右することから、院内がん登録の整備は、地域がん登録にとって必要不可欠です。
疫学研究に関する倫理指針(えきがくけんきゅうにかんするりんりししん)
平成14年6月に、文部科学省および厚生労働省が共同で、疫学研究実施にかかわる者に対して、基本原則を倫理指針として定めたもの。
それに伴い、関係する情報を幅広く提供するためにホームページを開設。
指針の策定と関係する情報の提供を通じて、疫学研究が、社会のいっそうの理解と信頼を得て適切に進められることを期待しています。
Kaplan-Meier法(かぷらん-まいやーほう)
直接法、生命保険数理法とともに、実測生存率の計算方法の1つ。
生命保険数理法に似ていますが、観察期間を数個の期間(1年単位など)に区切るのではなく、死亡が1例ずつ起きた時点でその時点の生存率を逐次計算する方法。
中途打ち切り例は、それが発生した時点で観察人数から除外します。 生命保険数理法で用いられる仮定(中途打ち切りは、区間の半分の期間、生存していたとする)を必要としないため、統計学的に、Kaplan-Meier法は生命保険数理法よりも信頼性の高い方法です。
以前は、症例数が多いときは生命保険数理法、少ないときはKaplan-Meier法が推奨されていましたが、今はコンピューターの集計機能が向上し、数万件であっても、Kaplan-Meier法で容易に計算することができます。統計学的にKaplan-Meier法が優れている点からも、対象者が多い場合でも、Kaplan-Meier法を用いることが推奨されます。
均てん化(がん医療の)(きんてんか)
均霑化(生物がひとしく雨露の恵みにうるおうように、の意)。
全国どこでもがんの標準的な専門医療を受けられるよう、医療技術等の格差の是正を図ること。
原因別生存率(げんいんべつせいぞんりつ)
がんによる死亡のみを死亡とみなす集計方法。
それ以外の死亡は、死亡日における観察打ち切りとして扱います。これを計算するためには、死亡者全員について、死因に関する信頼性のある情報が必要です。
コホ-ト生存率表(こほーとせいぞんりつひょう)
ある年で、X歳の男性または女性が、Y年後に生きている確率を示した一覧表のこと。
コホート生存率表は、厚生労働省(旧厚生省)が毎年発行している簡易生命表より計算されおり、日本の一般的な国民の生存率と解釈できます。
コホート生存率表は、がん統計の分野では、主に5年相対生存率を計算するための期待生存率の計算に用いられています。日本のコホート生存率表は、国立がんセンターで計算され、コホート生存率表についてで公開されています。
このコホート生存率表は、ある年(1964年から2004年まで)の、X歳(0歳から99歳まで)の、男性または女性が、Y年後(1年後から15年後まで)生きている確率の一覧表となっています。
遡り調査(さかのぼりちょうさ)
地域がん登録では、がんに罹患していたことが死亡票で初めて把握されたがん患者さん(DCNの患者さん)に対して、死亡診断書作成施設に問い合わせ、その患者さんの罹患情報を得る地域がん登録の調査法。Follow-backともいいます。
より精度の高い罹患情報を得るためには、各地域がん登録が遡り調査を実施するすることが望まれますが、予算や人員などの問題で、現在すべての地域がん登録で遡り調査が実施されているわけではありません。
腫瘍登録士(しゅようとうろくし)
がん登録に必要な知識、技術をもって実務に当たる専門職。
日本ではまだ制度化されていませんが、アメリカなどではがん診療専門施設には必ず腫瘍登録士を配置することが基準として定められています。
実測生存率(じっそくせいぞんりつ)
死因に関係なく、すべての死亡を計算に含めた生存率。
がん以外の死因による死亡も含まれます。がん以外の死因で死亡する可能性に強く影響しうる要因(性、年齢など)が異なる集団で生存率を比較する場合には、がん以外の死因により死亡する確率が異なる影響を補正する必要があります。
がんによる生命損失をみるために、がん以外の死因による影響を考慮して集計する方法が、補正生存率、相対生存率です。
重複がん(=多重がん)(じゅうふくがん たじゅうがん)
同じ人に発生する異なるがんのこと。
別の部位に別のがんが発生したとみなされるのでがん罹患数では別々に集計。
上皮内がん(じょうひないがん)
上皮内腫瘍とも呼ばれ、以前は、上皮内癌 carcinoma in situ と呼ばれていたもの。
上皮細胞と間質細胞(組織)を隔てる膜(基底膜)を破って浸潤(しんじゅん)していない腫瘍(癌)。
浸潤していないので、切除すれば治ります。上皮内癌が最もよく観察されている子宮頸部では、前癌病変の異形成と上皮内癌はしばしば共存し、両者の間は必ずしも明瞭な区別がつけられないため、これらを連続した一連の病変としてとらえ、子宮頸部上皮内腫瘍(cervical intraepithelial neoplasia, CIN)と呼んでいます。
中途打ち切り例(ちゅうとうちきりれい)
5年生存率を計算する場合の5年後の生死を把握することが確認できない患者さん。
中途打ち切り例には、下記の2種類があります。
(1)消息不明例(lost to follow-up)
(2)観察期間が終了するまでに、観察を打ち切った例(withdrawal)生存率を計算する場合、
これら2種類の中途打切り例は、同等の扱いを受けます。しかし、消息不明例には、疾病の予後と関連する理由で消息不明となる場合があり、この割合が多い場合には、生存率の解釈に注意が必要です。信頼できる生存率とみなされるためには、消息不明の割合は5%未満であることが求められます。
DCN(でぃーしーえぬ)
死亡情報で初めて登録室が把握した患者さん(死亡情報が登録された時点で届出がない)のこと。
Death Certificate Notification (DCN)といい、生前の医療情報を遡り調査することが推奨されています。
DCNが存在することは、届出が漏れており、生存しているために登録室で把握されていない患者さんが存在することを示唆し、DCNが高ければ登録の完全性が低い(登録漏れが多い)ことが推察されます。
DCO(でぃーしーおー)
死亡情報のみで登録された患者さんのこと。
Death Certificate Only (DCO)といい、DCOが低いほど、計測された罹患数の信頼性が高いと評価されます。
DCOが高い場合は、登録漏れが多いとみなされますが、低いといって登録漏れが少ないことの保証にはなりません。
その理由は、遡り調査に力を注いだ場合、DCNが高くても、DCOを低くすることが可能だからです。国際的な水準では、DCOは10%以下であることが求められます。
年齢調整死亡率(ねんれいちょうせいしぼうりつ)
もし人口構成が基準人口と同じだったら実現されたであろう死亡率のこと。
がんは高齢になるほど死亡率が高くなるため、高齢者が多い集団は高齢者が少ない集団よりがんの粗死亡率が高くなります。そのため仮に2つの集団の粗死亡率に差があっても、その差が真の死亡率の差なのか、単に年齢構成の違いによる差なのか区別がつきません。そこで、年齢構成が異なる集団の間で死亡率を比較する場合や、同じ集団で死亡率の年次推移を見る場合にこの年齢調整死亡率が用いられます。
年齢調整死亡率は、集団全体の死亡率を、基準となる集団の年齢構成(基準人口)に合わせた形で求められます。
基準人口として、国内では通例昭和60年(1985年)モデル人口(昭和60年人口をベースに作られた仮想人口モデル)が用いられ、国際比較などでは世界人口が用いられます。
年齢調整死亡率は、基準人口として何を用いるかによって値が変わります。
年齢調整死亡率は、比較的人口規模が大きく、かつ年齢階級別死亡率のデータが得られる場合に用いられます(標準化死亡比参照)。
年齢調整死亡率={[基準人口(昭和60年モデル人口)観察集団の各年齢(年齢階級)の死亡率×基準人口集団のその年齢(年齢階級)の人口]の各年齢(年齢階級)}の総和/基準人口集団の総人口(通例人口10万人当たりで表示)
年齢調整罹患率(ねんれいちょうせいりかんりつ)
もし人口構成が基準人口と同じだったら実現されたであろう罹患率。
がんは高齢になるほど罹患率が高くなりますので、高齢者が多い集団は高齢者が少ない集団よりがんの粗罹患率が高くなります。
そのため、仮に2つの集団の粗罹患率に差があっても、その差が真の罹患率の差なのか、単に年齢構成の違いによる差なのかの区別がつきません。そこで、年齢構成が異なる集団の間で罹患率を比較する場合や、同じ集団で罹患率の年次推移を見る場合に年齢調整罹患率が用いられます。
年齢調整罹患率は、集団全体の罹患率を、基準となる集団の年齢構成(基準人口)に合わせた形で求められます。
基準人口として、国内では通例昭和60年(1985年)モデル人口(昭和60年人口をベースに作られた仮想人口モデル)が用いられ、国際比較などでは世界人口が用いられます。
年齢調整罹患率は、基準人口として何を用いるかによって値が変わります。年齢調整罹患率は、比較的人口規模が大きく、かつ年齢階級別罹患率のデータが得られる場合に用いられます(標準化罹患比参照)。
年齢調整罹患率={[基準人口(昭和60年モデル人口)観察集団の各年齢(年齢階級)の罹患率×基準人口集団のその年齢(年齢階級)の人口]の各年齢(年齢階級)}の総和/基準人口集団の総人口(通例人口10万人当たりで表示)
標準化死亡比(ひょうじゅんかしぼうひ)
人口構成の違いを除去して死亡率を比較するための指標。
ある集団の死亡率が、基準となる集団と比べてどのくらい高いかを示す比と理解することができ、ある集団で実際に観察された死亡数が、もしその集団の死亡率が基準となる集団の死亡率と同じだった場合に予想される死亡数(期待死亡数)の何倍であるか、という形で求められます。
年齢調整死亡率の算出には年齢階級別死亡率が必要ですが、そのようなデータが得られない場合や、人口規模の小さい集団で年齢階級別死亡率の偶然変動が大きい場合の年齢調整の手法として、用いられます。
日本の都道府県比較の場合、基準となる集団の死亡率として通例全国値が用いられ、標準化死亡比が1より大きい都道府県は全国平均より死亡率が高く、1より小さい場合は全国平均より死亡率が低いことを意味します。
標準化死亡比(SMR) = 観察集団の実際の死亡数/(基準となる集団の年齢階級別死亡率×観察集団の年齢階級別人口)の総和
標準化罹患比(ひょうじゅんかりかんひ)
人口構成の違いを除去して罹患率を比較するための指標。
ある集団の罹患率が、基準となる集団と比べてどのくらい高いかを示す比と理解することができ、ある集団で実際に観察された罹患数が、もしその集団の罹患率が基準となる集団の罹患率と同じだった場合に予想される罹患数(期待罹患数)の何倍であるか、という形で求められます。
年齢調整罹患率の算出には年齢階級別罹患率が必要ですが、そのようなデータが得られない場合や、人口規模の小さい集団で年齢階級別罹患率の偶然変動が大きい場合の年齢調整の手法として、標準化罹患比が用いられます。
日本の都道府県比較の場合、基準となる集団の罹患率として通例全国値が用いられ、標準化罹患比が1より大きい都道府県は全国平均より罹患率が高く、1より小さい場合は全国平均より罹患率が低いことを意味します。
標準化罹患比は、ある集団で実際に観察された罹患数が、もしその集団の罹患率が基準となる集団の罹患率と同じだった場合に予想される罹患数(期待罹患数)の何倍であるか、という形で求められます。
標準化罹患比(SMR) = 観察集団の実際の罹患数/(基準となる集団の年齢階級別罹患率×観察集団の年齢階級別人口)の総和
標準人口(ひょうじゅんじんこう)
日本で通常用いられる「1985年日本人モデル人口」で、1985年(昭和60年)の日本人人口に基づいて作成されたもの。
罹患率の国際比較では、「Dollらの世界人口」という標準人口が用いられます。
日本人モデル人口は、世界人口よりも、高齢者の割合が大きい年齢構成ですので、年齢調整率は、日本人モデル人口を用いたほうが、世界人口よりも高くなります。
有病者数(患者数)(ゆうびょうしゃすう(かんじゃすう))
ある一時点での特定の疾患(がん全体や、胃がん・肺がんなどの特定のがん、循環器疾患など)の全患者数のこと。
例えば、「2005年1月時点の日本のがんの有病者数」=「2005年1月での日本全国の全てのがん患者さんの数」のこと。
予後調査(追跡調査)(よごちょうさ(ついせきちょうさ))
院内がん登録や地域がん登録にすでに登録されている患者さんの生存率計算のために確認するべき登録患者さんの生死状況の調査。
生存確認調査、追跡調査ともいいます。
院内がん登録に登録された患者さんの生死状況の一部は、その施設を最後に受診した日やその施設で亡くなった日からある程度把握できますが、それで全員の状況が確認できるわけではなく、地域がん登録への問い合わせや、役場照会(住民票照会)によって網羅できます。
地域がん登録に登録された患者さんの生死状況の確認のための予後調査(生存確認調査、追跡調査)も、同じく役場照会(住民票照会)によって得られます。また、地域がん登録では、人口動態死亡情報を利用して予後調査(生存確認調査、追跡調査)を行っているところもあります。
しかし、現在、すべての施設(病院)や地域がん登録で予後調査(生存確認調査、追跡調査)を行っているわけではありません。
臨床進行度(進展度)(りんしょうしんこうど(しんてんど))
地域がん登録では、がんと診断された時点における病巣の広がりを、上皮内がん(がんが表層にとどまり、他臓器へ浸潤・転移する可能性のないもの)、限局(がんが原発臓器に限局しているもの)、所属リンパ節転移(原発臓器の所属リンパ節への転移を伴うが、隣接臓器への浸潤がないもの)、隣接臓器浸潤(隣接する臓器に直接浸潤しているが、遠隔転移がないもの)、遠隔転移(遠隔臓器、遠隔リンパ節などに転移・浸潤があるもの)に分類。所属リンパ節転移と隣接臓器浸潤とをあわせて、限局、領域浸潤、遠隔転移の3群で比較する場合もあります。